アオジとクロジ−地鳴きで区別できるか−

illustration:takahide mizutani


「チッ」という声から
 私が初心者だった頃、冬の明治時宮探鳥会で「チッ」と声が聞こえてきたら「今のはアオジの地鳴きです」とリーダーが教えてくれました。このときは、なんとベテランの耳と識別能力は凄いものだと思ったものです。
 私も六義園でときおり開催する自然観察会では、同じように茂みのなかから「チッ」と声が聞こえ来れば「アオジがいますね」などとしたり顔でいって、参加の感心した顔を見てはほくそ笑みます。平地の森や林の中から「チッ」とささやくような声が聞こえてくればアオジというのが定番ですから、探鳥会のリーダーにとっては、初心者の心を掴むためにアオジの地鳴きはたいへんありがたい存在です。
 どのように頭のなかで識別しているのか、考えたことがありますので披露します。まず多少、鳥の知識が身についてくると、姿がチラッと見えただけで、あるいは「チッ」と声が聞こえただけで、鳥の名前が頭のなかに浮かぶのです。こういってしまうと初心者とっては身も蓋もありませんが、実際そうなのです。

どうやって識別しているのか
 たとえば、冬に都会の公園を歩いていて「チッ」という声が聞こえたら、まず頭には”アオジ”の名前が浮かびます。環境と季節からいってアオジがいることはおかしなことではありません。ここで頭に浮かんだ鳥の名前をぱっと言ってしまう人もいます。しかし、経験者であればあるほど間違えて恥をかいたこともあるため、頭の中で確認作業をおこないます。その確認の仕方は、この環境と今の季節でいておかしくないのか、近い仲間ではないのかといったように頭に入っているデータベースをフルに検索して検証をします。
 この場合、近い仲間で数の多いカシラダカでないか、ホオジロではないか、クロジでないかと考えます。カシラダカは農耕地など開けた環境を好むことで、ホオジロは草地の多い環境に多く地鳴きが「チッ」でなくて「チチン」であることで排除します。
 問題は、クロジです。ここで多少、手抜きだと数が多いアオジということにしてしまう人がいるかもしれません。また、慎重な人は姿を見えるまでがんばり、チラッとでも姿が見え尾の両側に白い羽が見えればアオジ、見えなければクロジと確認ができるまで口に出して言いません。
 実はベテランであればあるほど、簡単には断定しないのです。生半可な知識の持ち主ほど、いかにもわかったようにいってしまいがちです。ですから多くの場合”アオジ”であるとすると、生半可な知識のある人のほうが、まるでベテランのように見えてしまうことになります。しかし、これが間違っている可能性があるのです。

私は区別できない
 ベテランと言われる人の中には「今のはアオジ」「今のはクロジ」と区別をしてくれる人もいます。あるいは「地鳴きでアオジとクロジが区別できる」と、公言する人もいます。では、はたしてアオジとクロジ、地鳴きで区別をすることができるものなのでしょうか。
 アオジの方が柔らかく、クロジが金属的な声に聞こえ区別ができると私も思っていました。ところが録音するために、アオジとクロジの地鳴きをよく聞くとまったく区別することができませんでした。この両種の声紋を見ると、ほとんど同じパターンに見えます。また、地鳴きは仲間同士の存在の確認や警戒の声など、それぞれ意味があるはずです。どちらかというと、種類の違いより鳴き声の意味の違いのほうが大きいのはないかと思いました。

どうして検証するのか
 もし、アオジとクロジの地鳴きで区別できるということならば、どのように検証をしたらよいのでしょうか。少なくとも、それぞれの鳥が鳴いている声とその姿を確認したという事例が統計学的に納得できる件数が必要です。
 アオジとクロジが、いっしょに群れている時もあるのですから藪の中から声が聞こえてきて飛び出てきたのがクロジだったから「今の声はクロジ」と断定することは危険です。声のする方向にいる種類の確認ばかりではなく、”リップシンクロ(口の動きと声が一致)”するのを確認しなくてはなりません。そして、これらを物証として確認するためには、声紋を撮ることができる程度のボリュームで録音をしなくてはなりません。
 私自身、アオジの地鳴きと確認して録音したものは4,5件、クロジは1件のサンプルしかありません。
 また、当サイトとリンクを張っているMOさんのサイトでは「チッチッ系の鳴き声」のコーナーで、アオジ9件、クロジ5件の地鳴きを公開していますのでこれも参考にしてください。
http://migichan.anz.jp/torisounds02.html
 また、地鳴きと一束一絡げにしていますが、地鳴きには仲間同士の存在の確認、警戒、威嚇、攻撃、喜びなどの意味があるはずです。それぞれ、鳴き方が違うはずです。アオジとクロジの地鳴きのなかで、意味が違うことから声の質がオーバーラップしている可能性もあります。ですから、もし違うと言うことを検証するならば、それぞれの種類について存在の確認の声、あるいは警戒の声によって、どう異なるのかということを調べなくてはなりません。
 いずれにしても、おのおの数10件のサンプルが必要でしょう。しかし、これは現実的には無理です。アオジは、公園の順路の道ばたの地面で食べ物をついばんでいる姿をよく見るように、姿を見せてくれ、鳴き声を聞くチャンスがあります。しかし、クロジは藪が茂った環境が好みでなかなか姿を見せてくれないうえに、あまり鳴きません。それだけに、観察例はもとより、確認しての音源を収集することができないのです。
 個人で無理ならば、野鳥録音をしている人たち、それぞれが確実に種類を確認したサンプルを持ち寄って検証することならば可能かもしれません。将来、ネットワークを通じて、そのような検証ができるようになるとよいと思っています。しかし、現状ではアオジとクロジの地鳴きの違いを検証した報告はありません。
 このような野鳥の鳴き声についての思いこみや憶測がけっこうあります。録音をしていると、バードウォッチャー同士の伝承に間違いがあるころに気がつくでしょう。[2006年1月25日・起稿]




アオジの地鳴きの声紋
収録日:1998年2月7日
収録場所:東京都伊豆大島

 

クロジの地鳴きの声紋
収録日:2004年3月16日
収録場所:東京都文京区六義園