はじめに
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オオルリのさえずりは天下一品 |
鳥ほど、よく鳴く生き物はいません。野鳥のさえずりを聞けば多くの人が心安らかな気持ちになると思います。この鳴き声を楽しまない手は、ありません。
でも、多くのバードウォッチャーは野鳥の鳴き声は難しいと言われます。鳴き声から名前がわからないと言います。この難しいと言われる野鳥の声を覚えるもっとも有効な方法は、録音すること。録音する時にじっくり聞いて、家に帰ってきてからも編集で何回も聞けば、覚えるのは当たり前のことです。
また、なによりも自然のなかで聞いた素晴らしい声を家でも聞けるというのが、野鳥録音の大きな楽しみです。
かつては、大きく高価な録音装置や編集装置が必要でしたが、今では機材は安くコンパクトになり、野外でも十分使うことができるように整いました。また、一部の研究機関でしか使うことのできなかった声紋分析もコンピュータを使って簡単にできる時代となりました。この充実した現在、野鳥録音を楽しまない手はありません。
目 次
2005年にどんな録音機が良いかと聞かれたら、DATウォークマンとワンポイントステレオマイクの組み合わせを紹介していました。2004年に執筆した拙著『野鳥を録る』もDAT録音機の使い方について詳しく言及し、コード操作やマイクについても解説しています。当時、入手可能だったメモリー録音機は、マランツのPMD670ただ1機種。さらには、Hi-MDが出始めた頃でもあり、流れを読めない感じでした。当サイトの開設当時も同じ。「野鳥録音の方法」のコーナーは、DAT録音機でした。
しかし、今や流れはメモリー録音機になったと言っても間違いないでしょう。しかし、各社からさまざまな機種が発売され百花繚乱のおもむき。これからも各社から新機種が発表されることと思います。そのため、どの機種が良いのか紹介するのは難しいものがあります。ここでは、メモリー録音機はどんなものなのか、そして野鳥録音をするのには、どのようなポイントで機種を選べば良いのか紹介しておきます。
まず、基本的にはデジタル録音であるためにノイズが少ないことがあげられるでしょう。これに加えて、モーターなど駆動部分がないか少ないため、さらにノイズが軽減されているはずです。
駆動部分少ないということで、バッテリーの消耗が比較して少ないということになります。野外でもっとも気になるバッテリー管理が少しでも軽減されることは、ありがたいことです。さらには、少なくともモーターがないので、機構が簡単でその分、安くなるということになります。さらには、小型軽量となり、故障が少ないはずです。
さらに、音をデータファイルとして扱うため、コンピュータと連携が上げられます。テープメディアですと転送には、リアルタイム時間がかかります。ところが、多くの機種が用いているUSBで結べば、短い時間でコンピュータに取り入れることができます(注:サンプリング周波数、コンピュータの機能によって時間は異なる)。そのため、DATではデジタルとは言え、USBやファイヤーウエアーのオーディオ・デバイスが必要でした。また、アナログの場合は、デジタルへ変換するデバイスが必要でしたが、これも必要なくなりました。
ざっとおさらいのために、メモリー録音機の種類について書いておきます。
大きく分けて、デッキ型とポータブル型に分けられます。デッキ型は、およそA6判サイズ以上の大きさと言いましょうか。ポータブル型は、いわゆるウォークマンタイプからタバコ一箱くらいの大きさの、より小型ということでよろしいでしょう。もちろん、この間に入るPMD660やR-1などもありますので厳密には定義できません。デッキ型は、大きく重い、かさばるというデメリットに対し、機能の充実、見やすい液晶、大きな電池を入れられるので長時間録音、操作のしやすさということが上げられます。ポータブル型は、小型軽量、さらには安価という反面、操作性に問題があったり、機能的に劣っているということが上げられます。
なお、ボイスレコーダーは、小型軽量、さらには安価で性能的に、近いものがあります。しかし、人の声を録音するための機器であるため、PCM録音ができない、サンプリング周波数が低い、レンジが狭く、高音で鳴く野鳥の声を記録することが難しい機種があります。さらに、ステレオ録音ができない、外付けマイクを付けられない、独特のファイル形式を用いている、などの制約がある機種があるので、選択する場合は注意をしましょう。
種類には、サイズの他、映画やドラマの撮影現場で使用する業務用機材と自分の演奏を録音してチェックをしたり楽しむための民間用に分けられます。業務用は、機能が優れているものの高価であり、さらにメーカー保証があついという傾向があります。ただ、日進月歩の世界なので、民生用でも後発機のほうが機能が高いということがあります。
多くの機種は、自分の演奏をチェックする程度の使用を目的にして開発されてもののように思えます。要するに室内で音源との距離が近いという録音条件での使用を前提にしています。そのため、野外で音源との距離が遠い録音には、なかなか思うような機種がないのが現状です。
なお、価格は、業務用の数10万円のものから民生用1万円台まで幅広いのに驚かされます。おそらく、機能に加えて、企業の規模による製作ロットによる値段差が大きいと思います。そのため、価格差ほど、機能に優劣を感じない機種があることは、事実です。また、民生用でも高性能であり、十分録音することができるので、情報をじゅうぶんに収集して、選択することをおすすめします。
メモリー録音機の機能のチェック項目を下記に列記しておきます。機種選択の参考にしてください。
a.操作性が良いか。
b.性能の良い内蔵マイクは付いているか。
d.ノイズはないか、S/N比が良いか。
e.小型軽量か。
f.堅牢か。
g.メモリは4G以上内蔵か、あるいは入れられるか。
h.バッテリーは長時間、できたら8時間以上持つか。
i.高品位録音が可能か。できたら96kHz/24bitまでだとOK。
j.タイムスタンプが付くか。ファイルが形成された時間が記録されるかです。
k.液晶は大きくて明るいか。日向で視認できるかが目安です。
n.リモートコントロールがあるか。
o.外付けマイクを付けられるか。できたら、ファンタム電源が供給可か。
p.プラグの形状はどうか。マイクやヘッドホーンなど、すでに持っている機材が使用できるかのチェックです。
q.三脚に取り付けられるネジ穴があるか。
r.添付ソフトはあるか。音楽ソフトを持っていない場合、ソフト付きがお得となります。
基本は、操作性、小型軽量、内蔵マイクの良さ、バッテリーの持ちだと思います。それ以外の項目は、現状の新機種ではほとんど変わりはないと言えます。
操作性は、レスポンスの良さから操作ボタンの感度などです。やり直しのきかない野鳥録音ではいかにチャンスを逃さず録音できるかは操作性にかかってきます。小型軽量も同様で、いつでもどこでも持って行ける、置くことができることで、録音チャンスを逃すことが少なくなります。
マイクの良さは、音の良さということになりますが、低音や高音が強調されてなく自然な音に録れるということです。それに加え感度の良さです。マイクの感度はデシベルとパスカルの比”dB/Pa”、または”mV/pa”と表示されます。普通-30dBV/1Paから-40dBV/1Paの間です。−の数字が少ないほど、感度が良いことになります。ただし、カタログを始め、機種の紹介サイトの仕様には、書かれていることは少ない項目です。
現状(2009年)で、使用していみるとPCM-D1がかなり大きな音に録れ、PCM-D50がそれに次いでいます。たとえば、いろいろな機種をならべてホワイトノイズ(野外のゴーという音)を同じ音量を得られるようにボリュームを調整してみたことがあります。R-09、H2などの機種の録音ボリュームをめいっぱい上げて得た音量と同じ音量を得ようとすると、PCM-D1、PCM-D50では目盛りは6〜7でした。10まで上げたら、ホワイトノイズが大きくなるだけなのですが、静かなところで遠くで鳥が鳴いていたとしたら、この余裕はありがたいものとなるでしょう。
長時間録音が可能なメモリー録音機では、一晩8時間以上録音ができます。それに伴って、電池も長時間録音が可能でなくては意味がありません。
スピーカーが内蔵されているものがありますが、野外で鳥の声を流すのはマナー違反、また調査で誘因するのは出力に乏しく、とくに必要は感じません。
プレッレック機能の付いている機種もあります。これは、録音スタンバイ(ポーズがかかっている)状態でも、録音されていて、録音状態になると5秒前の音も録音されているという機能です。私の場合は、だいたいガサガサする音が入っているだけで、あまり有効性を感じたことはありませんが、あれば一声でも録音できることがあると思います。
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メモリー録音機での
録音方法
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立山をバックに
PCM-D50 |
はじめてのメモリー録音機のPCM-D1をミソサザイに向けたとき、鳥がだんだん近づいてきたのに驚きました。私は、木に寄りかかりPCM-D1を手に持っていただけです。録音レベルの針が、ビンビンとミソサザイのさえずりとともに動いているのを見て感動したものです。DAT録音機+マイクの録音では、マイクを録音機に刺しマイクを鳥に向けます。この動きで鳥を警戒させてしまっていたのです。内蔵マイクがあり1台で完結しているデバイスを有効利用しない手はありません。
たとえば、サンショウクイが鳴きながら飛んでくるのを録ろうと、マイクと録音機の準備をするといつも間に合いません。しかし、メモリー録音機ならば、さっと取り出して、ちょうど頭の上に来る頃には、録音を開始することができます。メモリー録音機により、チャンスを逃すことが少なくなりました。
メモリー録音機によって今までとは、違った録音をするようになりました。それは、長時間録音が可能なための放置録音です。鳥のいそうな所、鳴きそうな所に録音機を置いたままにしておき、後で回収します。大きなファイルとなりますが、コンピュータで鳴いているところを見つけて、そこだけをファイルとして保存することで、クリアな録音が可能となりました。
とくに、録音がしづらい夜間、早起きが辛い早朝など、メモリー録音機の活躍の場です。
夜明け前後のコーラスは、素晴らしいものです。しかし、ピークはわずか30分程度しかありません。ですから、鳴きそうなところに1台置いて回し続け、もう1台は手元に持って鳴いているところへ行って録音します。こうすることで、短い時間を有効に利用します。
また、どんなところへ行っても1台を長時間回し、環境音を中心に録音しておき、もう1台でアップの音を取り、後でミキシングをして、雰囲気ある音を作ることもできます。
メモリー録音機の特性を生かし、よりよい録音、そして音作りを工夫してください。
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メモリー録音機での録音失敗
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簡単便利なメモリー録音機ですが、簡単便利なだけに何度か失敗をしています。恥ずかしながら参考のために列記しておきます。
放置録音で、ポーズがかかったまま録音がされていなかったというのが、いちばん多い失敗です。どうしても鳥を驚かさないために早く離れようとしてポーズボタンの解除をし損ないます。同じように、ボリュームが上がっていなかった、-20のアネッターが入っていたということで、小さな音でしか録音されていなかったことがあります。
いずれしても、レベルが動いていることとカウントが進んでいることの確認が必要で、これを確認してから録音機から離れるようすべきでしょう。
次にやったのは、やはり長時間の録音で、前のファイルを削除していなかったために、短い時間しか録音されていなかったというのがあります。同じように、途中でバッテリーがなくなり、短時間しかデータが得られなかったこともあります。
現状では、故障も考えて重要な録音では、バックアップとしてもう1台を置いて録音しています。また、録音状態を無線で飛ばしモニターすることも検討しています。
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野鳥録音のコツ
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夜明けの
コーラスは最高だ |
野鳥録音のコツの多くは、DATの録音機でもメモリー録音機でも変わることはありません。たとえば、やはり早起きは必要です。蒲谷鶴彦先生は「野鳥録音のコツは、一に早起き、二に早起き、三四が無くて五に早起き」とおっしゃっておりました。野鳥のコーラスのピークは、早朝まだ暗い内からはじまります。朝は、空気が安定しているので声がよく届く、虫がまだ活動を始めていないのでその前に鳴いておくと野鳥の都合と、人工的な音が少ない、風が少ないという録音する者の都合が一致するのが夜明け前です。仮に録音をしなくても早朝の空気、夜明けのムードなど、自然がいちばん輝いて見える瞬間を体験することをお勧めします。
良い音を録るのは、いかにノイズをなくすかにあります。まずは自分が立てるノイズ、これは服の衣擦れの音、重心を変えた時の足の音、お腹の音などがあります。また、録音機を持つとグリップノイズが入ります。どうすれば、どういうノイズが入ってしまうのか、はじめはヘッドフォーンを付けるなどしてモニターしながら、いろいろ試してみて回避しましょう。
人工的な音でいちばん困るのは、自動車、航空機などの音。これは、場所と時間で避けるしかありません。この他、電柱にあるトランスの音、別荘などではボイラー、エアコン、冷蔵庫、自動販売機の音が、知らぬ間に入る困りもののノイズです。思わぬものとしては、ガードレール、鉄橋が鳴ります。
自然の音でいちばん多いのは、風の音です。ウインドジャマーである程度の風の音、マイクに風が当たる音を軽減することができます。というか、自然の中で風がないことはまずないのでウインドジャマーは必要です。さらに風が強くなって、ササが鳴ったり葉擦れの音がひどくなれば、どうしても録音が困難な状態になります。無理して録音するのではなく、できないと見極めることも経験から学んで欲しいことです。
このほか、流れの音。あるいは、場所によっては波の音などをいかに避けるかがコツとなります。地形を見て窪地状のところを探したり、録音機を向ける方向や岩や建物の陰に入って、少しでもノイズのない所を探しましょう。
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野鳥に近づく方法
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軽井沢にて
オオヨシキリを
狙うPCM-D1 |
よい音を録るためのコツは、いかに野鳥の近くにマイクを置くかです。夜明け前は、暗いので鳥からも見えず思いの他、近づくことができます。野鳥によっては、さえずる場所が決まっていますから、あらかじめ録音機を置いておく録音の方法もあります。
野鳥の種類によって近づける距離が異なります。もっと細かいことを言えば個体によっても違うことでしょう。さらに、季節によっても異なるものもいます。このあたりの勘所がわかると、より野鳥に近づくことができます。
あとは、ひたすら驚かさないようにそっと近づくことでしょう。蒲谷先生曰く「鳥の声を聞きながら近づくと、これ以上来るなという信号がわかる」といいます。さえずりのなかに地鳴きを交えたりするのがその信号です。野鳥の気持ちがわかれば、よい音が録れることになります。
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知識と経験を持つ
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金精峠にて
コマドリを狙う
PCM-D1 |
なんと言っても野鳥のことを知らなくては、よい音が録れるわけがありません。日本野鳥の会の探鳥会に参加したり、野鳥の本を読んだり、鳥仲間と交流することで、知識を深めていきましょう。ときおり受けるバードウォッチャーの質問や意見には、憶測や思いこみによる知識がたくさんあります。できたら論文や専門書を読んで、科学的なものの見方を身につけましょう。
また、1回でも多くフィールドに出ること。これにより、自然の中での野鳥の動きや生態をナマで体験すること、機材に慣れることで、よりよい録音を効率よくできるようになると思います。
野鳥録音のマナーは、自然のなかで野鳥の声を流さないこと。野鳥の声、さえずりは縄張り宣言であったり求愛の意味があり、野鳥の生態を攪乱する危険性があります。絶対に止めましょう。ある意味、これ以外のマナーは必要ありません。驚かしたら鳴きやんでしまいますし、飛び去ったらもとも子もありません。野鳥にやさしくしない限り、よい録音はできないからです。
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録音機以外の使い方
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鳥が鳴いていないなと思って録音機を作動させイヤホーンでもモニターをすると、遠くでオオルリが鳴いているのに気がついたことがあります。
あるいは、録音状態をモニターしていたら遠くでヤマドリの母衣打ちが聞こえたことがあります。さらには、もう聞きづらくなったヤブサメの声が、聞こえたことがあります。
簡便になったマイク付きのメモリー録音機は、補聴器の変わりになるのです。耳の遠くなった高齢者のみならず、若い人でも遠くで鳴く鳥の探索から声の確認、あるいは調査研究に役立てることができると思います。
双眼鏡が無くては、バードウォッチングは楽しめません。それと同じように耳の双眼鏡としてメモリー録音機を活用することができます。
これ以外にも工夫次第で、いろいろな使い方があると思いますので、お試しください。(2009年8月31日・起稿)
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